一般社団法人
日本サルコペニア・
フレイル学会

Japanese Association on
Sarcopenia and Frailty

フレイルとは

概念

“フレイル”とは、もともと「か弱さ」や「もろさ」を意味する英単語である“frailty”の訳語です。これまでは、「虚弱」や「老衰」などと表現されていた加齢により心身が老い衰えた状態を指します。2014年5月に日本老年医学会から提唱されました。フレイルの状態、もしくはその危険が高い状態を放置しておくと、健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく過ごせる期間)を失ってしまう恐れがあります。

特徴と原因

フレイルには3つの特徴があります。ひとつは、健常と機能障害(要介護など)の中間に位置する段階とされます。次に、多面的であるということが挙げられます。筋力が低下して転びやすくなるといった身体的な問題だけではなく、もの忘れや気分の落ち込みが続くといった認知・心理・精神的な問題、社会交流の減少や経済的な困窮といった社会的な問題も含みます。さらに、可逆性も特徴のひとつです。つまり、フレイルの状態は変えることが可能であり、適切な対処によって予防や改善ができます。フレイルにはさまざまな原因があります。例えば、疾患や加齢による活動の減少、筋肉量の減少、低栄養などがあり、これらが悪循環(フレイルサイクル)を形成するとフレイルの発生や悪化を加速させてしまいます。

評価

フレイルには多面的な特徴がありますので、評価の視点もさまざまです。ここでは身体的な側面を評価する代表的なフレイル基準(改訂版J-CHS)を紹介します。次に挙げる5項目のうち、3項目以上該当するとフレイル、1または2項目に該当する場合にはプレフレイル(フレイルの前段階)と判断されます。
  • 体重減少(6月間で2㎏以上の意図しない体重減少がある)
  • 疲れやすい(ここ2週間、わけもなく疲れたような感じがする)
  • 歩行速度の低下(通常歩行速度が秒速1.0m未満:5mを歩くのに5秒以上かかる)
  • 筋力の低下(握力が男性28㎏未満、女性18㎏未満)
  • 身体活動量の低下(軽い運動・体操、定期的な運動・スポーツをしていない)

治療・対策

フレイルの治療・対策では、悪循環となるフレイルサイクルを断ち切ることが重要です。たとえば、加齢や疾患によって筋肉量が減少すると、筋力の低下や活動量の減少が生じます。そうすると、エネルギー消費量は減少し、食欲もなくなり、低栄養となりやすくなります。低栄養によって、疲れやすくなったり、さらなる活動量の減少を招いたり、といった負の循環となります。まずは、かかりつけ医や自治体の窓口(地域包括支援センターなど)に相談して、ご自身の状態を把握することが大切です。バランスの良い食事を心掛けて、適度な運動を習慣化することが重要です。必要に応じて、専門医による診察、栄養士等による栄養指導、理学療法士・作業療法士による運動・生活指導、薬剤師による服薬指導などを検討しましょう。

予防

フレイルの状態になると介護が必要となる危険が高くなります。そのため、早期にフレイルの危険に気づき、予防することが重要です。自治体で実施される長寿健診などで定期的にチェックすることがお勧めです。ご自身で取り組めることとして、身体活動(少し息がはずむウォーキングや筋力トレーニングなど)、知的活動(新聞や読書、映画鑑賞など)、社会活動(サロン活動、通いの場、ボランティア活動など)に積極的に取り組みましょう。また、バランスの良い食生活や十分な睡眠などの生活習慣を見直すことも重要です。

心も身体も元気な状態で人生をいつまでも楽しく過ごすためにフレイルに気をつけて、健康づくりに取り組んでみませんか。

サルコペニア

サルコペニアとは

サルコペニアは、加齢に伴う骨格筋量減少と筋力低下を合わせ持つものと定義されています。サルコペニアはギリシャ語で“筋肉の喪失”を意味する用語であり、もともとは骨格筋量減少が唯一の判定基準となっていました。その後、2010年にヨーロッパのサルコペニアワーキンググループにより、骨格筋量減少と筋力低下を兼ね備えるものをサルコペニアと定義することが報告され[1]、それが現在のスタンダードとなっています。

サルコペニアの要因

サルコペニアには様々な因子の加齢変化が関係しており、それらによる筋タンパクの同化抵抗性(筋肉が作られにくい状態)が原因と考えられています。例えば、身体的不活動、運動単位の減少、慢性炎症、酸化ストレスの増加、サテライト細胞の減少、ホルモンの変化、外傷・疾病、インスリン抵抗性増大などです[2]。これらにより、筋タンパクの合成が抑制され、分解が促進されることで、骨格筋量が減少しやすい状態になると考えられています。

サルコペニアの予後

サルコペニアは有病率が高く、各種有害健康転帰に影響することが知られています。サルコペニアの有病率を調査した研究によると、地域在住高齢者の15%程度にサルコペニアが認められ、加齢に伴いその割合は増加することが示されています[3]。また、サルコペニアは、転倒や骨折、要介護や死亡などの有害健康転帰に影響することが示されており[4-5]、様々な場面においてサルコペニアの管理が求められています。

サルコペニアの判定

アジアのサルコペニアワーキンググループが報告した診断基準では、骨格筋量、筋力、身体機能の3指標で“サルコペニア”を判定します[6]。骨格筋量の減少を認め、筋力と身体機能のいずれか一方でも低下している場合にサルコペニアと判定します。骨格筋量を計測する環境がない場合には、握力と立ち上がりテストにより“サルコペニア疑い”を判定し、早期対策につなげることが推奨されています。

サルコペニアの対策

 サルコペニア対策としては、運動療法と栄養療法が基本となります[7]。運動療法としては、レジスタンス運動が重要です。高齢者が対象であっても、適切な方法でレジスタンス運動を行うことで、骨格筋量増加および筋力増強効果が期待できます。栄養療法としては、たんぱく質の摂取が重要になります。3食バランスよくたんぱく質を摂取すること、場合によっては栄養補助食品などで適切な量を補給することで運動の効果を高めることが期待できます。

文献

  1. Cruz-Jentoft AJ, et al. Age Ageing. 2010 Jul;39(4):412-23.
  2. Dickinson JM, et al. Exerc Sport Sci Rev. 2013 ;41(4):216-23.
  3. Mayhew AJ, et al. Age Ageing. 2019, 1;48(1):48-56.
  4. Yeung SSY,et al. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2019, 10(3):485-500.
  5. Beaudart C, et al. PLoS One. 2017, 17;12(1):e0169548.
  6. Chen LK, et al. J Am Med Dir Assoc. 2020 Mar;21(3):300-307.e2.
  7. サルコペニア診療ガイドライン作成委員会著. サルコペニア診療ガイドライン2017年版.ライフサイエンス出版2017.

本学会のミッション

本学会は、高齢者の生活機能低下を招く要因であるサルコペニア、フレイル、ロコモに関する実践と研究の振興及び知識の普及、会員相互及び内外の関連学会との連携協力を行うことにより、サルコペニア、フレイル、ロコモ研究の進歩を図り、高齢者医療の発展に寄与し、社会に貢献することを目的としています。

サルコペニア診療ガイドライン
2017年版のCQとステートメント