指導士インタビュー
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指導士インタビュー 【第三回】New
サルコペニア・フレイル指導士の活動最前線
指導士インタビュー 【第三回】管理栄養士
髙﨑美幸(たかさき・みゆき)先生
東葛クリニック認定栄養ケア・ステーション松戸、松戸市医師会松戸市在宅医療・介護連携支援センターで、管理栄養士、サルコペニア・フレイル指導士として活動。在宅栄養やリハビリテーション栄養に精通。著書も多数執筆し、地域連携や栄養ケアの向上に尽力している。
在宅療養を選択する方にも、適切な栄養ケアを
専門職種(管理栄養士)として行っている活動
現在は松戸市にある病院にて、地域の栄養ケアの拠点となる「機能強化型認定栄養ケア・ステーション」を設け、在宅訪問栄養食事指導をメインに行っています。当法人は慢性腎臓病(透析医療)に精通していることから、透析患者さま向けの栄養指導も積極的に実施しています。
また、出向先の松戸市医師会松戸市在宅医療・介護連携支援センター(以下センター)の管理栄養士として、医師等からの依頼に基づき、栄養アセスメントを行い、診療や支援に資する助言を行うこともあります。
2011年の東日本大震災発生後に、日本栄養士会からのボランティアで、石巻や女川地区で食事や栄養の支援をさせていただいた経験が在宅・地域の栄養士という自分の道を決めることとなりました。「人々が日本のどんな場所でも在宅の栄養ケアを受けられるように」という思いを胸に、神奈川県の病院で秦野市を中心に周辺の11市9町で9年ほど活動いたしました。
指導士として行っている活動
東葛クリニック認定栄養ケア・ステーション松戸を拠点に、定期的にフレイル・サルコペニア予防のイベント(健康ゼミ&栄養の日イベント)を実施しています。また、栄養相談の中で、全患者さまへのオーラルフレイルチェックを行い、必要な方には唾液腺マッサージや口腔ケアも実施します。
特に在宅療養患者さまのなかには、なんらかのサルコペニア・フレイル症状が見られる方、サルコペニア肥満の傾向のある方などが多くいらっしゃいます。当院の患者さまだけでなく、地域の開業医の先生方から指示を受けてご自宅や入所施設に出向き、そのような方への栄養指導を行っています。患者さまだけでなく、そのご家族やかかりつけの先生、ヘルパー、ケアマネ、訪問看護師との連携や指導も重視しています。
またセンターで、「高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施」事業の一部として松戸市から受託しているハイリスクフレイル予防事業にも携わり、サルコペニア・フレイル予防の啓発活動もしています。
施設外で行っている活動
「みんながみんなで健康になる」という一般社団法人に於いて、一般の方向けにサルコペニア・フレイル対策のイベントを行っています。
定期的な活動として、メディカルウォーキング(医歩)を実践する「オンライン医歩」(第1日曜)、一般の方のよろず質問に専門職が答えたり、話題提供のプレゼンを実施したりする「健康縁日(オンライン)」(第3日曜)を行っています。
市内の団地にお住まいの高齢者を中心に参加いただいており、今年で4年目です。動画配信もしていますのでぜひご覧いただけたら嬉しいです。
患者への評価や結果の伝え方、アプローチ方法
食事や栄養について患者さまご自身はさほど困っていないとおっしゃることがよくあります。食事は生活の一部で、当たり前のことだからこそ気付きにくいため、例えば「体重が少し減ったかな」「食欲がないな」というような、患者さまの日々の様子から判断して、積極的にお声かけするようにしています。
またセンターで実施している市のフレイル予防事業の一環で、訪問、電話、集団測定会などを実施しています。地域に出向いて住民の方と関わる機会を通し、「気づき」が生まれることも大切だと思っています。
他職種のスタッフへの評価や結果の伝え方、アプローチ方法
前提として病院の場合は院内に各医療スタッフが揃っていますが、在宅訪問の場合は患者さま毎に介入しているサービスが異なり、多事業所から職種別にスタッフが伺い対応するため、別々の視点でアドバイスを行うと患者さまご家族の混乱を招く事になりかねません。
例えば食べることと運動することは密接に関わっており、リハビリテーション職のスタッフと整合性を持ったアドバイスをしないと、適切なケアができません。患者さまが納得して食事や運動に取り組んでいただけるよう、他職種との連携は特に重視しています。
職種やフィールドなど、さまざまな垣根を越えて連携することが必要
思いと今後の抱負
同職種、他職種のスタッフにサルコペニア・フレイルを正しく理解することの重要性を広め、患者さま一人ひとりへの細やかなケアに繋げたいです。
また院内、院外、在宅という枠組みだけでなく、医療、福祉、介護の垣根を越えて連携することもこれからますます必要になると感じています。学会のなかでも、管理栄養士だからこそできることを模索していきたいです。
周りの人たちと協力し、活動の輪を広げていけるように
指導士を目指す方へのメッセージ
食べることは、人が生まれてから死ぬまで、生活から切っても切り離せないものです。対象者と密にコミュニケーションを取りながら、適切なケアやサポートができる人材が必要です。
サルコペニア・フレイルについて携わるようになってから感じたのは、一人の力でできることには限りがあるということ。現在は院内でも他職種スタッフとともに、サルコペニア・フレイル予防の啓発イベントを行えるようになりました。一緒に活動できる人たちを見つけて、いかに連携してその輪を広げていくか、こういった意識を持った仲間が増えると嬉しいです。
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指導士インタビュー 【第二回】
サルコペニア・フレイル指導士の活動最前線
指導士インタビュー 【第二回】薬剤師
前堀直美(まえほり・なおみ)先生
ながえ前立腺ケアクリニック専任薬剤師・日本薬剤師会認定薬剤師・老年薬学認定薬剤師。基幹病院や保険薬局での経験を生かし、多角的なアプローチで患者対応を行う。サルコペニア・フレイル指導士ほか、骨粗鬆症マネージャー・排尿機能検査士・認知症ケア指導管理士等、多種多様な資格を有する。
薬剤師だからできる、薬剤だけに頼らない多角的なアプローチが強み
専門職種(薬剤師)として行っている活動
現在は泌尿器専門クリニックの専任薬剤師として、主に患者さまの診察前面談を実施しています。
薬の効果と副作用などのチェックや、現在の症状にどのくらいお困りなのか聞き取りをします。例えば薬物治療を進めたいのか、それとも生活指導で改善したいのかといったモニタリングを行い、それらの内容を医師の診察に繋げています。
指導士として行っている活動
特に前立腺癌の治療であるホルモン療法をされている方や、睡眠障害のある方で薬物を長期で服用されている方などは、転倒やふらつき、認知機能の低下等サルコペニアの症状がみられる場合が多くあります。そういった方に薬の飲み方や服用量を減らす提案、生活指導を行っています。
現在勤務するクリニックのスタッフは少人数ではありますが、それゆえに医師、看護師、薬剤師、事務員全員が一丸となって患者対応できるのが強みです。患者さまの表情や動作・会話などをヒントに、スタッフ全員で患者さまを見守りながら一人ひとりへの診療に繋げています。
また私は骨粗鬆症マネージャーの資格も保有しているため、主に女性の骨粗鬆症のスクリーニングも行っています。骨折歴のある患者さまや、フレイルの兆候があり転倒のリスクがありそうな方に骨密度の測定を促し、測定値が低い場合は主治医と協議し、薬物治療に繋げることも行っています。
施設外で行っている活動
医師と2人で地域のシルバークラブに出向き、年に3回ほど出前講座を開催しています。
主に排尿症状や前立腺癌について、薬の服用方法等の説明と、多剤併用の注意喚起や睡眠障害における衛生指導を実施しています。
数年前からは、サルコペニア・フレイル予防のための運動や食事習慣についても加えて指導しており、住民の皆さまへの啓発に力を入れています。
患者への評価や結果の伝え方、アプローチ方法
当院では患者さまにサルコペニア・フレイルの可能性がある場合、その情報を院内で共有し、患者さまにとって有益なアドバイスを行っています。
排尿障害初診の患者さまには、ルーチンでフレイルと転倒リスク評価を実施(基本チェックリストと転倒スコア)し、併用薬の中に睡眠導入剤があればその変更や休薬の提案を主治医に行っています。
前立腺がん患者さまの場合には、初期診断時にルーチンでフレイル・サルコペニア評価を行っており、該当する患者さまに対しては、ホルモン療法開始後に食事・運動療法を行い、意欲低下や食欲低下の患者さまには漢方薬などの投与を提案しています。
他職種のスタッフへの評価や結果の伝え方、アプローチ方法
看護師には、薬の副作用についての注意点を事前に伝え、気を付けて患者さまを看てもらっています。医師に対しても、患者さまとの面談時に聞き取りしたことはもちろん、心配されていることや不安そうだったことを細かく伝えています。
基幹病院に勤務していた頃は、入院患者さまの血液検査結果や様子、変化等の情報を得てから患者に面談を行っていましたが、保険薬局では処方箋一枚の情報で対応しなければならないケースが多いのが現状です。
そのため、院外の保険薬局薬剤師には院内での面談や診察内容をFAXで共有しています。それに基づき、保険薬局の薬剤師が実際の薬を見ながら患者さまへ服薬指導を行っています。
「病気になったらまずは薬」を当たり前にしないということ
思いと今後の抱負
薬剤師としては、多剤併用の軽減や、ハイリスク薬の変更提案活動に力を入れたいと考えています。緩和ケアや終末期医療は「薬ありき」というのがまだ一般的ですが、私自身が老年医学や老年薬学に携わってから、薬に対する考え方が少し変わってきました。
例えば前立腺癌のホルモン療法中の患者さまには、サルコペニア肥満の方がとても多く、体力が落ちて鬱になってしまう方もいらっしゃいます。当院でもその様子をたくさん見てきて危機感を感じ、院長と私の2人で指導士資格を取るにいたりました。
こういった経験から、サルコペニア・フレイル予防のためにも「病気になったらまずは薬」ではなく、運動や睡眠などの生活習慣の改善をはかることの重要性を感じました。
たとえ患者さまご自身が薬を要望された場合も、強い薬からではなく、漢方薬などの補剤の処方から検討するなどして、できるだけ薬物に頼らない療法を提案していきたいです。
各フィールドで活躍する薬剤師が、指導士に興味を持ってくれたら嬉しい
指導士を目指す方へのメッセージ
私は指導士資格を取ってから、薬の処方についてや患者対応など、サルコペニア・フレイルにおける考え方がより深まり、視野がぐんと広がったように感じています。以前はあまり接点のなかった、他職種の方たちとの交流が増えたことも大きな刺激になっています。
指導士の職種のなかで、薬剤師の人数がまだ少ないのが現状であり課題です。基幹病院やクリニック、保険薬局など、さまざまなフィールドで活躍する薬剤師の方たちに向け、サルコペニア・フレイルを理解することの重要性を啓発し、指導士に興味を持つ方や交流が今後もっと増えていけばいいなと考えています。
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指導士インタビュー 【第一回】
サルコペニア・フレイル指導士の活動最前線
指導士インタビュー 【第一回】川崎医療福祉大学 リハビリテーション学部 助教、理学療法士
佐藤宏樹(さとう・ひろき)先生
広島県福山市出身。理学療法士。川崎医科大学附属病院リハビリテーションセンター非常勤兼、川崎医療福祉大学リハビリテーション学部で助教として教鞭を執る。サルコペニア・フレイル指導士として、サルコペニア・フレイルの認知や啓発にも精力的に取り組んでいる。
患者対応の質を向上させるために、自分の持つ知見を惜しみなく生かす
専門職種(理学療法士)として行っている活動
患者診療において、入院時にフレイルについてのアンケートを実施しています。YESかNOで回答する簡易チェックリスト形式で、患者さまができることとできないことを把握でき、運動や生活指導をする上でとても役に立っています。
認知機能が衰え回答が困難な患者さまの場合は、特定できる客観的な数値を元に判断するため、特に評価者の個人スキルが求められます。
また病院データベース内の評価項目にサルコペニア・フレイルがほぼ入っており、患者診療時に活用できるよう他の療法士と内容を共有しています。患者さまの身体機能において、入院中に合併症に繋がるおそれがないか等、サルコペニア・フレイルの観点からリスクを想定しています。
指導士として行っている活動
病院では主に他職種の教育や指導に携わっています。
まず現在のサルコペニア・フレイルについての認識や理解度を調査するために、医師、看護師、栄養士、薬剤師、理学療法士等、全職種600名程度を対象にアンケートを実施しました。
病棟間や職種間で認知度や活用法におけるギャップはまだありますが、診療下の先生に評価方法を提示し、最終的には患者さまご自身で、できるだけその評価とフィードバックを生かしていただくことを目指しています。
また看護師の教育課程にサルコペニア・フレイルに関する講義内容を組み込み、アンケート結果を元に「こんなことを知ってほしい」という点を動画にして紹介しています。
施設外で行っている活動
地域の理学療法士や保健師とコラボし、65歳以上の高齢者向けの講演や評価を行っています。
フレイルについての説明から始め、各専門職種から認知や嚥下といった機能の説明等を全体で行った後、小ブースで個々への評価とフィードバックの時間を設けています。それを元に患者さまにはご自宅で実践いただき、約2カ月後に再評価もしています。
患者への評価や結果の伝え方、アプローチ方法
ひとえに高齢者といっても悩みはそれぞれで、運動習慣等により機能に個人差があります。不安を抱えている方への細やかなケアを実践するため、いかにわかりやすくフィードバックするかが大切です。
アプローチとしては、小規模な会場で個別ブースを設け、患者さまと密にコミュニケーションを取れるようにすることでしょうか。普段から評価に携わる複数職種のスタッフが同行し、患者対応の質の向上を目指します。
他職種のスタッフへの評価や結果の伝え方、アプローチ方法
評価が簡単であるがゆえに、患者さまへの伝え方に困っている若手スタッフが多いように感じます。そこで、評価項目の一つひとつにおすすめのフィードバック方法を設けた、細かな資料を作成し活用しています。
ただ評価だけを伝えるのではなく、問題点がどこにあり、何に気を付けていくべきか、そしてどのようにフィードバックをし目標設定するかが非常に重要であるため、その方法の部分から指導しています。
サルコペニア・フレイルを理解することの重要性を広め、活用機会を増やしたい
思いと今後の抱負
教育現場においては、卒前教育のレベルを高めることが重要だと考えています。サルコペニア・フレイルについて、学生たちに正しく、どれだけわかりやすく伝えていけるかが課題です。
医療現場の医師や看護師には、特に急性期におけるサルコペニア・フレイルの認識の重要性を啓発していきたいです。転倒予防等の医療安全の面にも組み込んでいけたらいいなと思っています。
そしてもちろん、一般の方向けの啓発活動や交流ももっと増やしたいです。
評価からフィードバックまで、一貫して適切に行える指導士が必要
指導士を目指す方へのメッセージ
サルコペニア・フレイルという用語の認知は少しずつ広まりつつありますが、実際に現場で診療にどのように生かすべきか困っているスタッフがまだたくさんいます。そのために、指導士が主体となって伝え行動することがとても大切です。
患者さまとコミュニケーションを取りながら、よく考え、適切なフィードバックまで総合的にできる指導士が増えると嬉しいです。
また指導士というのは、サルコペニア・フレイルの認知を広げる一つのツールのような役割も果たしてくれていると感じています。より多くの方に興味を示していただけるきっかけになれたら嬉しいです。